あざらし話
2020、7チャンエルビデオ、ロボットのパフォーマンス 英語で読む・read in English
この旅は東京で始まり、新潟(越後妻有・浦田)では、地元の人々とこの土地が人生の中でどのように変化してきたか話をしました。
その話は「あなたは地球が時間とともにどのように変化するのを見ましたか? 」「この変化において、機械はどんな役割を果たしたと思いますか?」という同じ質問に答えた北極圏のロングイェールビーンの人々の話と重ねられます。 2019年1月 エレナ・ノックスは、アーティストのリンゼイ・ウェッブとともに、世界最北端の集落であるスヴァールバル諸島のロングイェールビーンに冬の調査旅行に行きました。緯度78度、北極点からわずか1200 kmのこの地点で、彼女はタテゴトアザラシをモデルにした日本のセラピーロボット「パロ」とともに「あざらし話」というビデオシリーズを作りました。
「パロ」は、本物のタテゴトアザラシの生息地である氷と闇の世界に行き、そこで生き物や土地の様子と対面します。 そこがある種の行脚(あんぎゃ)の起点となります。 屋外に出たことさえなかったロボットにとって、それは心がふるえるような大冒険です。 北極圏は未来を考える人々にとって、重要な地域です。ここは地球環境危機、つまり氷山の溶解、オゾンホール、永久凍土の融解、そして大気中への炭素放出など、増え続ける地球環境変化の中心であり、発祥地です。 科学、物語、地元の人々との交流、気象データを融合させたこの「あざらし話」は、AI 感覚ロボット「パロ」を通して、人間と環境と機械(ロボット)のつながり、そして感覚的な現象を理論化する手段を問題にしています。 人間と機械(ロボット)の交流が、将来さらに発展するために、私たちは
生き物の定義における境界線上にあるこの事例は、現象学的および技術産業的な変化を理解する新しい方法を明らかにします。 一般的な生き物の必要条件(例えば、エネルギー変換、生殖、刺激への反応、死の間際の変化)は、火災、天災、公害、およびソフトウェアプログラムにまで及ぶ可能性があります。 生き物の定義は科学的であるだけでなく文化的であり、グレーであいまいな影に覆われています。多くの東洋哲学は、人間でないものも生き物として認識しています。 多くの場合、このことは「もの」や「けはい」への配慮と尊重によるものです。 「パロ」はあいまいで、機械であり、友人であり、変化し、学習し、刺激に反応します。私たちは「誰が、何が、感覚を持った生き物か?」「このことを倫理的にどのように見て、どう大切にすべきか?」という問いを、パロとともに解き明かします。 |
背景となるコンセプト
「あざらし話」は、変化する大気条件のデータから物語を作り出し、人間が「パロ」と対話する際に無意識に感じている感覚と関連づけます。 地球環境は、感覚に対する私たちの無意識の反応を表わしているとも言えます。その感覚は、技術的、または物語=歴史的な方法によって引き起こされ、読み取られます。 「パロ」は、緩和ケアのために開発されたテクノロジーロボットです。それはケアをもたらす感覚を備えているように感じられ、人々が地球上で最後の時間を快適に過ごすことを助けます。 私たちは「パロ」が人間の被験者に与える影響と、このロボットが持つ一種の「感性」に対する人々の反応を観察します。そして「パロ」には主観的な現象学的経験(クオリア)があると想像し、この詩的な仮定をタテゴトアザラシの生息地であるスヴァールバル、ひいては地球全体に広げてみます。 このプロジェクトは、北極圏での啓発的な感性を創造的に探求していきます。 「パロ」のプロフェッショナルとしての大きな成功は、認知症の人たちとの関係です。顧みるならば、私たち人類は気候変動について特定の認知症(その発症を認めたくないが)を患っているとも言えます。私たちは行動を維持するのに十分な長さのさまざまな恐怖や事実を思い出せないのです。私たちは歴史から学ぶのではなく、繰り返します。 気候自体が認知症になりつつあるとも言えます。 哲学者ダニエル・デネットは、直観、そして直観的な振る舞いは、話し合うことによってではなく、語ることによって変わると言います。 アートに基づく擬人化は、気候変動への取り組みを促進するために、科学的なデータや、物理学、化学、生物学などの論理や方法が到達できない部分を明らかにする可能性があります。 能動的な媒体または仲介者である「パロ」の能力は、人間化された環境のクオリア、感情、およびエントロピー的トラウマを検証/対処するのに役立ちます。 「パロ」は、自然からテクノロジー崇拝に変わってしまった惑星に、まだ理解でき、世話をするべき何かを与えるという使命を帯びて、太陽のない北極に行きます。 おそらく、「パロ」は、”認知症の生態系"が、かつて知っていたことを思い出すきっかけになるのかもしれません。 「パロ」について
「パロ」はコンパニオンロボット:心に働きかける「メンタルコミットメントロボット」です。2002年にギネス世界記録によって「世界で最もすばらしいセラピーロボット」に選ばれました。 翻訳:荒川 洋子
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